「異端社員」候補者たちの旅立ち
国際情報専攻 武田里子 |
筆者の勤務する国際大学は9月入学制をとっているため、ゴールデン・ウィーク明けから卒業シーズンに突入する。カジュアルな装いの学生たちのなかに、スーツ姿が散見されるので、今日は誰が修士論文の口頭試問を受けるのか一目瞭然となる。
毎年30名前後の留学生が日本での就職を希望し、約3分の2が就職している。国際大学では全ての授業を英語で行っているため、日本企業に就職できるだけの日本語能力を持ったものは限られる。その一方で、留学生たちの就職先として浮上してきたのが外資系企業である。
日本政府は、1988年の「経済計画」及び「雇用対策基本計画」において、はじめて「専門的・技術的分野の外国人は可能な限り受け入れる」との方針を打ち出した。修士課程を修了した留学生たちはここでいう、まさに「専門的・技術的分野の外国人」ということになろう。国際大学を卒業した留学生のうち162名(2001年4月現在)が日本で就職している。就職先を大きく、(1)教育・研究機関、(2)外資系企業及び外国政府機関、(3)日本企業及び自治体等に区分して集計した結果が表1である。
表1.国際大学を修了した留学生の日本での就職先
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教育・研究機関 |
外資系企業等 |
日本企業等 |
合計 |
1987年-2000年 |
38(24.5%) |
72(44.4%) |
52(32.0%) |
162 |
1987年-1997年 |
14(26.4%) |
13(24.5%) |
26(49.1%) |
53 |
1995年-2000年 |
24(22.0%) |
59(54.1%) |
26(23.9%) |
109 |
*1995年より留学生の就職活動に組織的な支援を開始した。
1995年以降は外資系企業への就職が急激に伸びて全体の54.1%となった。これは、外資系企業の日本進出に呼応している。外資系企業の求める人材が日本の労働市場では、まだ十分に確保できない状況が、留学生の就職活動を有利にしていると思われる。また、外資系企業への就職の増加は、職務内容と雇用条件を面接の段階で明確に提示する採用手法が留学生に好まれていることもある。いずれにせよ、6月に修了する留学生の6〜7割が日本国内で就職していることは、現在の高失業率が求人と雇用のミスマッチに起因していることを示している。採用の通年化、労働市場の流動化は確実に進展しているといえるだろう。
日本の高度経済成長を支えた特徴の一つは「純粋培養型労働市場」だといわれる[1] 。日本政府が頑なに外国人を排除し続けてきたのは、多様な価値観を持った外国人の受け入れは、終身雇用制や年功序列、企業内組合といった日本的経営に適合しないばかりか、生産性向上を阻害するとの判断があったからではないだろうか。高度経済成長下では日本人社員でさえ、独創性や創造性は不要とされた。それらは一つ間違えば「異端社員」のレッテルに転化する。ところがバブル経済崩壊後は一転して、かつて日本企業の競争力の源泉といわれたこの日本的経営体制が、経済再生のための桎梏であるかのように議論が展開してきた。
経済のグローバル化の進展は目覚しい。日本の製造業企業の海外生産比率は1割に達し、特に乗用車では3割、カラーテレビでは8割、VTRでは6割(1995)に及ぶ[2] 。国際化ならびに多国籍化していく企業の組織形態が従来のままでいいはずがない。分野を問わず、グローバル化に対応しうる新たな雇用形態や評価システム、組織形態の構築が求められているのは確かだ。
日本企業に就職した留学生たちの巻き起こす騒動が時おり伝わってくる。多くは、所属する組織の「常識」を理解していなかったことに起因している。組織内の「常識」に対する疑問や問題意識は、一般的に「共同体」の内部の者には認識されずらい。異質なものを取り込むことによって、初めて、新たな価値観の創造や組織改革に弾みがつくのではないだろうか。ハイブリッドの強さは生物分野だけでなく、組織分野でも応用可能な手法だろう。自己主張の強い、個性的な人材をどう使いこなしていくのかに組織としての力量が問われる。「異端社員」たちは今年もさまざまな騒動を巻き起こすことだろう。しかし、彼らの存在が日本社会の変革の速度を速めるファクターの一つになるに違いない。がんばれ、「異端社員」候補者たち!
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