「ヒーローが犯した大きな罪 ―― 現実からの逃避 ―― 」





国際情報専攻
村上恒夫

 みなさんは「怪傑ハリマオ」を知っているだろうか?私が少年のころ見た彼はTVドラマに登場する正義の味方、紛れもなくヒーローだった。 

最近、産経新聞に連載している「日本人の足跡」欄に、「マレーのハリマオ・谷豊」が取り上げられた(5月20日現在 連載中)。TVに登場する完全無欠のヒーロー像とは異なる彼を知り、ますます彼が好きになった。

振り返れば、昭和30年代には今では考えられない主人公がTV、映画、小説そして漫画で大活躍していた時代だった。月刊漫画の「ふろく」には第二次世界大戦の時に太平洋で活躍した空母や戦艦のペン画集や紙で作成する模型だった。そして漫画に出てくる主人公も悪い米国をやっつける正義の大日本帝国軍人だったのだ。特に「0戦」や「戦艦大和」は当時の男子で夢中にならない子供はいなかった。そして、それを咎める大人も周囲にはいなかったと記憶している。今思えば、当時の日本はサンフランシスコ条約を経てGHQの占領政策から抜け出て、それまで押し込められていた自尊心が堰を切って流れ出したのだろう。しかし、そのように復権したかに思われた帝国軍隊も、ある日を境に消えて行った。本当に、忽然と消えていったのだ。そして、その代わり出現したのが、「ウルトラマン」である。

「ウルトラマン」とは、日本の軍隊のデフォルメである。これは万人が認めることではないだろうか。本来、侵略して来る悪者に対して戦うのは「自衛隊」なのだが、怪獣映画の常として、「自衛隊」は非常に無力である。とてつもなく強い怪獣に対して、無力でありながらも戦いを挑む戦闘機や戦車は「カミカゼ特攻隊」である。子供心に哀れを感じ涙腺が緩んだ。

一方、戦勝国アメリカのTVや映画では、多くの場合、軍隊が強く、わざわざ「ウルトラマン」が出てくることもなかった。いや、悪者は常に、ドイツ、日本そして共産国家であり、敵対勢力が日本の「怪獣」のように常識外れの強さを持っていなかったので「ウルトラマン」を生み出す必要がなかったのだ。

常に勝利するアメリカの軍隊、それに対して、蝿のように叩き落され、蟻のように踏み潰される自衛隊。涙無くしては見れないのだ。

先日、映画「ガメラ2」なるものを見る機会があった。宇宙から来襲した宇宙怪獣を地球の怪獣「ガメラ」がやっつける話だ。この映画でも自衛隊はあいかわらず弱い。しかし、最後には「ガメラ」をサポートして、宇宙怪獣を退治することに成功する。この映画の作成にあたった監督は、「戦争映画を撮りたかった。自衛隊を活躍させたかった。」と話していた。なぜ自衛隊を正義の味方として作成した映画が作られないのだろうか(いままでに2,3作品はあるが)。このような偽善を、いつまで繰り返すのだろうか。

力ずくで侵略する怪獣にいくら説得しても無駄なのだ。第一、「ウルトラマン」が説得して、怪獣にお帰りいただいた時は皆無に等しい。力ずくでお帰りいただいているのだ。「ウルトラマン」が「自衛隊」に代わるだけではないか。戦争を礼賛するからいけないのか。それならアメリカ映画は真っ先に上映禁止にすべきだ。外国で作成したものはOKで、日本で作成したものはNGなのだろうか。

我々が一番恐れなければならないのは、戦争映画を作製して、そこで自衛隊が勝利を収めることではない。世界有数の軍事力を持ち、まがりなりにも東アジアで最強を誇る軍隊を日本が現に所有していることを、多くの国民が認識していないことにあるのだ。