「学問のすゝめ」


福沢諭吉著岩波書店発行(岩波文庫)1942年第1刷発行・2000年第76刷発行500円)

「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり」で始まる福沢諭吉の「学問のすゝめ」は皆さんも一度は必ず読まれたことがあると思います。この冒頭の文が「学問のすゝめ」を一番良く現していると思われがちなのですが、実際は「人は生まれながらにして貴賤貧富の別なし、ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり」という一節が彼の修学への姿勢、つまり「学問のすゝめ」の思想的な基幹が最も顕著に現れています。それまでの学問とは実生活には直接関係の無いものでしたが、諭吉はこれらを否定し、日常生活に密接な読み書きや計算に始まって、地理、歴史、物理、経済学などの「実学」をこそ勧めたのです。

 また三篇には「一身独立して一国独立すること」という一文があります。明治以前の鎖国の世に旧幕府のように窮屈な政治を行う時代であれば、人民に気力がないのもその政治に差し支えがないだけでなくかえって便利でした。ことさらに人民を無知に陥れ無理に従順にさせることが役人の得意としたことでしたが、外国と交わる日に至っては大きな弊害となったのです。故に先ず自己の独立を図ることにより、その自己の集合体である「国」が独立できるのです。

明治以前は人の身分や職業は生まれながらに決定されていました。それ以外の選択は許されず、その運命を受け入れて従うしかなかったのです。しかしながら現代は、誰もが等しくチャンスを与えられて生まれ、自己の努力により人生の選択が可能となりました。 

福沢諭吉そのような時代の現在にこそ諭吉の考えが生かされるのです。自ら「学問」を修めるかどうかにより人生の方向性が左右され、修める考えの無いものは「貧人となり下人となるなり」、学問を修めて物事を良く知ろうと努力するものは「貴人となり富人となり」自らの目標を達成できるのです。

さらに昨今の「IT」時代では情報の進む速度が速く、学ぶこと、学ばねばならないことが非常に多く「修学への姿勢」がなお一層重要なのです

日本の開国という時代に民衆を導いた福沢諭吉の「学問のすゝめ」の精神は、情報の開国を迎えた現代の人々にこそ読んで欲しいのです。

国際情報専攻 安田 守