「大統領とメディア」


石澤靖治著文春文庫2001年発行660円+税)

  昨年5月までの2年間、米国に駐在していた私は、米国大統領選挙運動の報道に現地で接し、有権者に対してオープンでいいなという印象を持った。しかし、それと同時に、仮に日本で首相公選制が導入された場合に、はたして有権者は正しい選択ができるであろうかという疑問も持たざるを得なかった。候補者の政策や主張に大きな違いがない場合、良いイメージを有権者に与えた方が選挙に勝つという、イメージ競争になるからである。本書の筆者も、米国におけるイメージ選挙の歴史、背景、問題点を踏まえた上で、「確固たる理念を持たず、メディア戦略によってショーアップされただけの指導者をもつ国家ほど不幸なことはない。(中略)政治家に必要なものは理念であり政策である。メディア戦略、情報戦略はそれを実現するための手段にすぎない。それを忘れてはならない。」と言う。これは、これからメディア戦略を駆使したイメージ選挙へ向かう可能性の高い、今後の日本の選挙のあり方への警告であり、筆者は米国におけるイメージ選挙の問題点を踏まえ、日本において必要な対策を取るべきであると提言している。

 昨年の米国大統領選挙におけるメディアの役割、これまでのメディア選挙の歴史、そしてホワイトハウスによるメディア戦略を述べた後、現在の米国におけるメディアと政治の関係を筆者は批判する。ウォ―ターゲート事件以降、メディアには権力に対する批判をすることが国民から期待されているのにもかかわらず、メディア側は、それを政治家個人のスキャンダルを報道することと混同しているというのである。そして、簡単に一時的に受け手に喜ばれる政治家のスキャンダル報道が多く、メディアが本来すべき、じっくり考えさせる報道が後退している要因は、ジャーナリスト個人にあるのではなく、メディア産業も利潤追求という「資本の論理」に従わざるを得ない状況にあると、筆者は指摘する。

 今後の日本の選挙のあり方、メディアと政治の関係を考えるのに役立つ、米国における問題点をコンパクトにまとめた良書である。

国際情報専攻 内山幹子