「ちょと一言よろしいですか」

人間科学専攻 土屋八千代

著者紹介:
★★今日は★★
人間の心理や行動に関心があり再学修のため入学しました。
2年間宜しくお付き合い下さい。
特に今日のStress社会の中で,いかに健やかで自分らしい人生を生きるか≠ネんて考えています。
目下,勤務の関係上「看護学生のStress認知とCoping形成」について研究をしていますが,自己のStress・Managementも含めて,院での研究は看護婦の行動分析です。


 みなさん,初めまして。先日やっと修論の面接が終了しました。優しい中にも学問の厳しさをキラリかいま見せながらの教授達の質問の一つ一つがまた勉強になりました。今は「やっと終わった」という思いと「もう終わり?」との複雑な思いが交差していますが,少しだけでも成長した自分が実感できます。忙しいを理由に不真面目な学生であった私に根気よくつきあって下さった河嶋先生やゼミの皆様方に感謝します。

 今回は『修論奮闘記』の特集です。現在またはこれから研究活動に向かう皆様方に,何らかのお役に立てばと思い以下のようなことを書いてみました。よろしかったら参考にして下さい。

1.まず最初に,私の研究活動の実践からお勧めの内容を一言。

1)研究の計画書は研究活動の道標となりますから,しっかり書きましょう。

@動機:何をしたいのかを自分の問題として明確にするためにも,課題を取り上げた動機はしっかり書くこと。内容は問題意識とその問題に対する現状の分析,ならびにその課題の社会的意義も記述しておくとよい。この部分は研究に行き詰まった時きっと役にたちます。つまり,いつでも初心に戻れると言うことです。

A文献レビュー:研究の課題に関する文献を遡及的(約10年間くらい)に検索し,課題がどこまで解明されているか,残された課題はどこか等を充分に吟味して,自分の研究課題の位置づけを明確にしましよう。つまり,新しい知見の発見か,成功例の追体験か,現状の問題解決か等。この段階で研究の目的を文章にしておきましょう。文献は整理して,文献記載の規定に従って必要事項を記載した文献カードを作成しておくとよいでしょう。次に,文献の批判的熟読の結果,自己の研究の理論的背景や概念枠を検討します。この時仮説やデーターの分析視点などを明確にしておきます。

B研究方法:対象者やデーター収集・分析の方法等を含め,研究のデザインを決定します。特に何をデーターとするのか,収集の方法は調査か実験か観察か・・・,介入を行うのか,データーは誰がどのように収集するのか,場所や時期は,分析には統計的処理を行うのか否か等など具体的に検討しておきます。

C研究スケジュールの明記:研究には制約があります。自分の能力,時間,費用,倫理的問題等を考慮して,研究の目的や方法を決定していきます。最終論文締め切り1〜2週間前位を終了の目安にしてスケジュールを立てます。計画は予定通りには進まないものですから,早め早めに締め切り日をもうけて,自分に”はっぱ”をかけることが必要です。

2)データー収集活動:介入する場合は特に倫理面に注意が必要です。

3)データー分析作業ならびに結果の整理:膨大なデーターの山につぶされないように。

4)論文構成と仕上げ:論文の構成や書き方は専攻分野別に一定ではありませんが,科学論文としての基準はありますので,他者の原著論文を評価的に多数読むことをお薦めします。その結果,自分の論文の構成や書き方について学べると思います。

  以上の活動は,研究活動開始時に時間をかけて『研究計画書』をしっかり書いていれば,実際のデーター収集・分析はもとより,論文書もスムースに進みます。論文の序論から研究の方法まではほぼ『計画書』の通りに書けばよいのですし,あとの作業は収集・分析したデーターを結果として図表等で示すことと,結果の解釈を含めて研究の目的に沿って考察を書くだけです。これで,論旨の一貫性が保たれます。最後に「結論またはまとめ」を書くと論文が締まりますし,読み手には親切というものです。

 とは言え,データー収集は相手がある場合は相手に合わせないといけませんし,データーの分量が多い場合等は整理や分析に時間を要するので計画段階での十分な吟味が必要,さらに論文での考察部分では,第二次文献検索が必要になってくる場合もあります。つまり,研究活動は膨大な時間を消費しますし,予定通りには進まないものですが,少なくとも計画書をたてて予定したスケジュールに従って実施していくことで,期限内には仕上がると思いますので,頑張って『計画書』を立てて下さい。また,指導教官との十分な連携が重要で,特に研究に慣れない方は適切な指導の機会を得ることが必要ですし,こちらの積極的姿勢に教官はいつでも応えてくれます。

2.私の研究課題は,看護大学生のストレス・マネジメントに関する研究〜ストレスと健康の体験学習を通して〜です。私は,学生のストレス耐性づくりについての教育的な関わりを継続的に研究してきました。今回は,Lazarusの心理的ストレスに対する認知的評価と対処の理論を看護教育の学習−教授過程に導入して,大学での体験的な学習を通して意図的に学生のストレス対処行動の変容を試みようとしたものです。

 結果的には,授業期間内に実施したことや集団を対象としたことなどの研究の限界がありますが,大学生のストレスの構造が判明したこと,体験的学習前後の比較から,ストレスへの受け止め方が肯定的に変化し,問題解決の具体的対処行動が多様化したことが判明し,介入が対処行動変容への動機付けとして効果的であったことが明らかとなりました。

  研究活動において苦労がなかったわけではありませんが,今まで感覚的であったことが実際の数値として明らかになったことで,教員としての今後の方向性が明瞭になり,苦労が喜びに倍加されました。本当に実りの多い研究活動でした。

 研究者ではない現場での実践者である私達が研究するとはこのようなことだと思っています。身近な小さな疑問からスタートし,その疑問が一つずつ明らかになっていく,そのプロセスや結果を実際の仕事に活用していくこと,それに伴って確実に成長している自身を自覚できる喜び・・・みなさんにも早くこの喜びを実感してほしいと思います。しかし,この喜びを実感できるのは,日々努力し頑張ったと胸を張れる人だと思いますし,先生や学友,事務やヘルプデスク等,多くの方々の支援のおかげがあってこその成果と思います。,通信制ゆえのデメリット(多くの先生方との直接的な触れあいが少ない)の中でも,私の場合はスクーリングでの講義はもとより,履修した科目の課題レポートを通して多くの学びがありましたし,その学びは研究のみでなくそのまま仕事上に有効活用しています。これが働きながら学ぶ生涯学習のスタイルかな,などと思っています。

 今回,種々の事由で修論が提出できなかった方も,これから取り組む後輩の方々も,十二分に自己発揮できた研究成果をまとめられることを期待しつつ,学院で多くの人々に出会えたことを感謝しています。有り難うございました。