「今後のマルティプライアー12.5」
国際情報専攻 岡野直行 著者紹介: 外資系投資信託でマーケティングを担当しています。 本大学院では、「確定拠出年金分野における投資信託の役割」に ついて研究しています。皆さんのご意見も聞かせて下さい。 趣味はヨットです。クルージングやレースを楽しんでいます。 クルー募集中ですのでご興味のある方は、連絡下さい。 |
1.マルティプライアー12.5とは
われわれは総合社会情報研究科設立の初年度に、国際情報専攻の小松憲治教授の特別研究(ゼミナール)に在籍した学生12名です。全国に点在するメンバーは年齢も職業もまちまちです。当然、研究テーマも「金融」、「経済」、「経営」などの諸分野に広がっています。一人一人の研究テーマと目的意識は多種多様ですが、IT革命の成果をフルに活用する日本最初の通信制大学院が誇る画期的な遠隔授業システムと伝統的な面接指導によるゼミの運営を通じて、各自が潜在的な能力を大きく開花させました。
キーワードは、わがゼミの愛称「マルティプライアー12.5」です。小松先生と12名の仲間たちが研究過程で発表・討論を重ね、それが相乗的に作用して各自の修士論文に「乗数効果」を現わしたと自負しています。小松先生の説明によると、「乗数12.5の内訳は、院生の分が12で残りの0.5が教師の分」だとのことです。
2.ゼミの活動
入学当初ゼミは毎月1回土曜日に行いました。その後、遠方の方の交通事情を考慮して隔月に1度週末(2日間)を使うようにしました。皆が社会人であるため主な学習時間は週末です。またゼミの開催も実質的に週末しかチャンスはありません。
つまり「予算制約の下でいかに効率を高めるか」がわれわれの課題でした。
ゼミの具体的な進め方は、
@土曜日 午前中に修士論文作成に関する個別指導(希望者)、
A午後からは各自のテーマについての発表と討論、
B夜には盛大な懇親会、
C日曜日は先生の専門分野の講義を聴講など です。
このアイデアは1年次秋の軽井沢ゼミの時に皆で話し合って先生に申し入れました。初めての合宿であった「軽井沢ゼミ」が、われわれの結束を固め、各自が本研究科を志願した目的である修士論文の作成に向けて前進を始めた瞬間であったといえます。
写真は、日本大学 軽井沢研修所でのゼミ(99年9月)の模様です。
3.今後のマルティプライアー12.5
在学中は本学のサイバーキャンパス・システムに従い「ディスカッション・ルーム」や「eメール」、ときには電話も利用してお互いに連絡をとりあってきました。ところが、本学の全課程を修了すると(本学貸与のメールアドレスが使用できなくなるなど)意思疎通に支障をきたす恐れがあります。そこで各自(個人)のメールアドレスをグループ登録し、下記の「multiplier」を冠したホームページを開設しました。
www.egroups.co.jp/group/multiplier
(当サイトは外部非公開のためご覧いただけないのが残念です。)
既にメンバーからは多くの投稿(連絡事項や今後の研究課題など)が寄せられ、活発な議論が始まっています。また秋には同窓会を「思い出の地」軽井沢で行うことも決まっています。当サイトはその連絡に活用する方針です。ライフラインを確保したことで、われわれは修了しても仲間で在り続けることが容易です。
4.マルティプライアー12.5のおかげで・・・・
マルティプライアー12.5の一員となったことで、小生の修士論文は実力以上の仕上がりになったと存じます。ここに拙稿論文要旨を掲げるとともに本研究科でお世話になった先生方ならびに事務課の皆様およびマルティプライアー12.5各位のさらなるご発展をお祈り申し上げます。
<論文要旨>
本論文のテーマは、「確定拠出型年金分野における投資信託の役割」 〜投資信託の現場から〜 である。筆者は投資信託会社に籍を置き、これまで投資信託に関連する業務のほとんどを経験してきた。本研究は、投資信託会社に勤務する者の立場から、わが国で2001年度にも導入される予定の「確定拠出型年金」の内容を見極め、投資信託の果たす役割または投資信託業界のビジネスチャンスを模索するための事前の情報収集・整理を目的としたものである。
アメリカやイギリスなど確定拠出型年金制度の先進国では、その発展に「投資信託」の貢献を抜きに語れない。本稿では、わが国で新制度が導入されることになった経緯およびその背景を探り、わが国の投資信託業界の現状と制度先進国の状況との比較も試みながら特に以下の3点を意識しながら論を進める。
イ)わが国で導入される確定拠出型年金制度とはいかなるものか。
ロ)わが国の制度においても「投資信託」は主役になり得るのか。
ハ)新しい制度の発展のために投資信託業界は何をなすべきか。
なお論文は5章から構成されている。各章毎の要旨は以下を参考にされたい。
@第1章では、確定拠出型年金制度導入の背景を探る。まずわが国の既存の年金制度体系を整理して企業年金制度の問題点を整理する。そもそも確定拠出型年金導入待望論は、多くの問題を抱えながら運営されている「厚生年金基金」制度を有する母体企業から発せられた。ここでは代行返上論にも言及して厚生年金基金の抱える問題を明確にしていく。
次に2000年度(多くの企業では2001年3月期決算)から、わが国の企業会計方針は「国際会計基準」に統一される。これにより退職一時金と企業年金は「退職給付」会計に一本化される。このため退職に係る給付構造は会社組織全体、経済社会全体の問題として浮上する。
A第2章では、2001年の通常国会で審議される見通しの確定拠出型年金制度に関する法案を詳細に検証する。分析の結論は失望的で、このままではわが国で新制度が発展することは難しい。ここでは、わが国の確定拠出型年金制度が拡大するために必要な改善点または制度の内包する問題点を8項目にわたって指摘する。
B第3章では、米国の確定拠出型年金制度の歴史的変遷と投資信託業界の年金市場への取り組みを考察して、米国で「投資信託」が主役になった理由を解明する。同時にわが国の投資信託業界の現状とも重ね合わせる。
わが国で検討されている法案は米国401(k)プランを参考としているが、米国における1970年代半ばの環境でスタートすることになりそうである。規制と保護により自由化の遅れたわが国投資信託業界の取り組みも約四半世紀遅れてしまった。急いでキャッチアップするためには米国の成功体験を学習すべきである。
また英国の事例として、サッチャー政権以降の年金政策の変遷と最近の状況についても紹介する。
C第4章では、歴史は浅いものの、わが国投資信託業界の年金市場(確定給付型)への参入についてジャーディン フレミング投信・投資顧問の事例を紹介し、年金分野で投資信託を利用する際のメリットについて解説する。
年金資金の運用においても、投資信託を利用すると投資に関する複雑なプロセスの一部を標準化することが可能である。
D第5章では、「投資信託」の役割を考える。確定拠出型年金分野において、投資信託は他の金融商品に対して比較優位にある。
まず確定拠出型年金が発展するために加入者が必ず理解しなくてはならない、投資に関するリスク認識について、企業年金と個人との「測度」の差から確定拠出型年金制度にかかわる金融機関・業者は投資家(加入者)に対して「何を伝えるか」を検討する。
次に「何で伝えるか」を考察する。ここで筆者はインターネットの積極活用を提案する。「標準化」されたコンテンツであれば、インターネット(含携帯電話)による配信が最適で、新制度普及のためには有効利用が欠かせない。また、まもなく訪れるブロードバンド化されたインターネット社会での投資教育・情報発信のあり方にも言及する。
一方、インターネット上でやり取りされる標準化された情報を補完するテーラーメイドの資料の充実や一般メディアの活用も重要である。
E結論として、現在示されている法案では新制度の拡大・充実は難しい。新しい制度が既存の制度に遠慮していては経済の構造改革は進まない。閉塞感のただよう日本経済の再生には、「自助努力」をベースとする経済・金融構造の改革を進める「決心」が求められる。手遅れは許されない。
以上
(なお、法案名は「確定拠出年金法案」であるが、本文中は従来から一般的に使用されている「確定拠出型年金」という用語を用い、「確定給付型年金」と対比している。)
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