「あなたならどうする?人生の危機――お勧めの一冊」
ナンシー・K・シュロスバーグ著(日本マンパワー出版2000年発行2,000円+税)
修論で余裕がない昨年末に、一気に読んでしまったのが「『選職社会』転機を活かせ」(日本マンパワー出版)というナンシー・K・シュロスバーグ(Schlossberg)の本です。題名の「選職社会」に惑わされてしまいますが、内容は職業だけに関する本ではなく、人が出会う転機、特にマイナスの転機をどう受け止め、乗り越えるかを考えさせるものです。ナンシー・K・シュロスバーグは、全米キャリア開発協会の1999年度会長でしたので、恐らくこのような題がつけられたのだと思います。実に、様々なケースが載っています。勿論、仕事に関するケースも多いのですが、結婚(マイナス?)、離婚、配偶者に死別した、子供が突然独立を言い出した、親の介護をしなくてはならなくなった等、誰にでも起こりそうなことがほとんどです。また、「泣きっ面に蜂」のケースもあります。
シュロスバーグの理論は、転機として“イベント”と“ノンイベント”の両方を考えます。出来事が起きた時を「転機」と捉えるのが通常の考え方でしょうが、予期していた出来事が起きなかった時も「転機」と捉えます。実は、この予期していた事が起きなかった場合のショックが問題だそうです。なぜなら、これは他人に分かりにくいので回りからのサポートが受けられず、一人で悩むケースが多いからだそうです。
アメリカのキャリア・カウンセラーの資格は、資格試験に合格することはもとより、様々な厳しい条件があります。心理カウンセリングとキャリア・カウンセリングの両方をされている方が多いようで、そのためか、この本はキャリア・カウンセリングというより、心理カウンセリングに関する本かなと思ってしまうような内容です。また、国や文化の違いはあっても人に起こることは共通なのか、違和感なく共感できました。
シュロスバーグは4つの“S”、Situation、Self、Support、Strategyを転機を乗り切るためのリソースとして使うことを勧めています。「自分自身についてのチェック」リストや具体的な「行動計画」のリストも挿入されているので、今、転機でない方も危機管理の一つとして、自分自身の行動パターンをチェックしてみたらいかがでしょうか。明日は何が起こるか分からない時代の今、日頃の防災意識が大事なように、転機の乗り越え方の知識を少しでも持っていると、転機が訪れた時にうまく切り抜けることができるかも知れません。
人間科学専攻 井上久子
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