永住外国人に対する地方参政権の早期実現を望む

国際情報専攻 武田里子

著者紹介:

  国際情報専攻の武田里子です。新潟県大和町にある国際大学に勤務しています。国際大学は日本初の大学院大学で学生の7割を世界40ヶ国からの留学生が占めるというユニークな大学です。
私は学生センターで留学生の在留資格と奨学金関連業務を担当していますが、業務を通じてODAや労働力の国際移動に関心を持つようになりました。2年間、経済開発や開発支援について理論的に学び、日本の国際貢献について考えてみたいと思っています。



 昨年春、小渕首相が韓国を訪問した際、在日韓国人の地方参政権付与に前向きに取り組むと発言したことが報道された。その後、当時の与党三党による永住外国人に対する地方参政権付与に関する合意報道もあり、私は、一気にこの法案が成立するものと期待していた。しかし、どうやら今世紀中の成立は見送られることになりそうだ。この法案の成立の可否は、日本が21世紀に向けて世界の国々とどういったスタンスで向き合おうとしているのかというメッセージを含んでいる。

最高裁は、永住外国人の地方参政権について1995年2月の判決で「法律による地方自治体の選挙権付与は憲法で禁じられていない」との判断を下している。また、憲法93条には、地方自治体の長や議員は「住民」が選ぶとある。さらに、永住外国人の地方選挙権法制化を求める意見書の採択や決議は33都道府県(7月31日現在)で行われ、市町村議会も続いている。地域社会のレベルでは、そこに暮らす「住民」の意思によって政策決定をすべきだという、一定のコンセンサスが得られつつあるのではないだろうか。それに反対する主要な議論は、「選挙権の付与は帰化が条件」というものだ。しかし、その議論には、国政参政権と地方参政権とを混同させ、世論の合意形成を遅らせようとの意図を感じる。そもそも「国民」と「住民」の使い分けの矛盾は、戦後処理の中で日本政府自らが作り出したものである。

 戦前の日本は、韓国や台湾の人々を強制連行し、強制的かつ一律に日本国籍を押し付けた。ところが戦後は一転、本人の選択権を認めることなく日本国籍を奪った。1945年12月に改正された衆議院議員選挙法の付則で「戸籍法の適用を受けざる者の選挙権及び被選挙権は当分の間これを停止する」として、いわゆる内国籍のない朝鮮人、台湾人の参政権を剥奪した。そして、1947年5月に施行された外国人登録令では、「台湾人及び朝鮮人は、この勅令の適用については当分の間、これを外国人とみなす」と定め、さらに1952年のサンフランシスコ講和条約の発効を期に、法務府民事局長通達によって旧植民地出身者の日本国籍を剥奪したのである。

 日本国籍の喪失によって、戦争中は日本のために働き戦った旧植民地出身者は、戦傷病者戦没者遺族等援護法、未帰還者留守家族等援護法、恩給法、旧軍人等の遺族に対する恩給等の特例に関する法律、原子爆弾被爆者の医療に関する法律等、戦争犠牲者保護法のいずれからも締め出されてしまった。さらに、日本政府は、国籍条項をたてに旧植民地出身者を社会保障制度(国民健康保険法、国民年金法、児童扶養手当法等)からも排除したのである。「国民」と「居住者」の巧みな使い分け、つまり、納税義務は日本人も外国人も「平等」だが、その反対給付の性格をもつ社会保障の受給資格は国籍条項をたてに「日本国民のみ」という矛盾を引き起こした。

この矛盾が解消されたのは、日本国民の意思によるとはいいがたく、ベトナム難民の発生を受けて批准された国際人権規約(1979年)と難民条約(1982年)によるところが大きい。これは現在進行中の経済、金融の自由化同様、国際的な圧力のもとでのしぶしぶの決断であったという印象が否めない。

だからこそ、永住外国人の地方参政権問題は日本国民自らの自主的な判断で、未来の日本のありようとして、早期に実現に向けて英断がなされることを望む。この課題は参政権の問題だけでなく、外国人への差別、日本の国籍制度、地方分権など、日本社会のさまざまな問題にかかわっている。現在、在日韓国・朝鮮人は約64万人といわれている。その9割以上は日本で生まれ、日本で育ち、生活基盤の全てが日本にある。韓国では、5年以上の居住資格を持つ外国人に2002年から地方選挙の選挙権を与えるため、既に実務作業に入っている[1] 。この問題の結論をいたずらに引き伸ばす時間的な余裕はない。

将来的に国籍要件の緩和や国籍選択という考えが進めば「国籍」の概念自体も変化するだろう。現在、一部の人々が永住外国人の地方参政権付与に反対する根拠としている国籍至上主義は、グローバル化の進展の中では説得力が希薄である。米国で「日系アメリカ人」が活躍しているように、在日韓国・朝鮮人が「コリア系日本人」と自らのアイデンティティを主張する日の来ることを期待したい。来世紀の日本は外国人を広く受けいれ、多民族国家にならざるを得ないだろう。外国出身の住民と隣り合わせにあたり前に暮らす環境が整って、ようやく日本は普通の国家になるのではないだろうか。永住外国人に地方参政権を認めることはその第一歩となる。



[1] 徐賢燮・在福岡韓国総領事「新世紀を語る(8)」朝日新聞、20001124