熟年交遊録



国際情報専攻
橋本信彦

著者紹介:

東京の北区にて10代後半までを過ごす。豊富な職業経験がいまの私の自慢、10代後半の不動産屋での仕事では、別荘地モドキを売りまくった。 20代前半の目立ったところでは、着物の模様士、これは正しい仕事で、なまいきにも個展などを開く。30代からは建築職人、腕は悪くない。数 年前に階段から落ちる。打ちどころが悪かったのか猛烈な読書人となり知識の空白を埋める。いまは自己の限りのない知的能力に不安を覚えてい る。

ヤッチャンという名の友達がいる。小学生からの仲よしはいまでは
彼一人、呼び名から、危ない人種を想像する人もいるが、けっしてそ
の類の輩ではない。時々電話がある。

「あのさぁ、オレなパソコンをもらったんだよ。携帯用の」
「これでな、オレもメールっていうのやりたいわけよ」

 いやな予感が脳味噌の隅々まで広がる。彼はじつにいいヤツなの
だけど、知恵もそこそこあるのだけど、新しい知識を自分の脳にいれ
こむことが極端に下手なヤツなのだ。前に、ビデオカメラの操作を教
えるのに大変な思いをしたことが頭をよぎる。

「んーーとさ、あのぉ、本でも買ってね、そんでわかんないことがあったら
電話してよ」と、ぼくは警戒感を極力おもてに出さないよう注意して返事
をした。

「うん、だからね、電話をしたんだよ。まずさぁ、どんな本みりゃいいん
だよ、絵がいっぱい入っている、えと、図解っていうのが入っている
ヤツおせーてよ」ぼくは大げさだが、いやけっして大げさではなく天を
仰いだ。神はどこにオワセル。

 ここで一言、忙しいからと言って断われば事は簡単。しかし、ぼくの
性格からだろうが、友人と呼べるものがほとんどいない現状で、数少
ない一人の彼を失うわけにはいかない。

「とにかくさ、もらったパソコンをね、見せにきなよ。もらえるくらいだと
使いもんにならないのもあるからさ、古くて」
「だいじょうぶ、きれいだから、くれたのはバイトの東大生だよ、だから
OK
」なんできれいで東大生だと大丈夫なのかを聞こうと思ったがやめた。

 ぼくのこの優しい心根が、その後のおおいなる困難な事態への発展に
なることを誰が予想しえただろうか。いや、ちょっと予想していたけど。

                               以下次号