「イントラネット・カウンセリングの試み」

人間科学専攻 笹沼正典

著者紹介:

Born:東京
Family:妻と2人だけ(昨年一人娘を嫁がせた)
Career:損保会社32年→人材サービス会社2年。うち、教育研修分野16年
Favorite:ミニシアター&美術館&Jazzだが、本学入学以来時間がないのが悩み。
Membership:日本産業カウンセリング学会、日本キャリアカウンセリング研究会など

10月に行われた日本産業カウンセリング学会の発表論文集の中に「サイバー・カウンセリング」なる新語を発見した。インターネットのカンセリング・サイトが急増しており、また携帯電話が21世紀の最大のカウンセリング・ツールになるとの予測があるなど、閉鎖空間での直接的面接というカウンセリングの既成概念を超えたニューメデイア・カウンセリングが、一定の社会的影響力を持ち始めているという印象を持つ。しかし、急激なメデイアの発達という現実が先行し、サイバー空間での間接的面接という新たなカウンセリング領域に関する理論的な検討は立ち遅れている、というのが今日の状況であろうか。

「イントラネット・カウンセリング」は私の造語である。インターネット技術を利用した企業内ネットワークがイントラネットであるから、産業カウンセラーとして、こんな便利でコストが低い道具を利用しない手はない、というのが初めの着想である。先行事例は殆ど聞かないが、これも一つのチャレンジである。というわけで、勤務先の金融系人材派遣会社で本年5月からイントラネットの会社ホームページに「カウンセリングルーム」サイトを開設し、主に派遣社員(約600名)を対象にカウンセリングを始めた。担当カウンセラーは筆者である。
 半年を経過した相談状況のプロフィールは、次のとおり。アクセス件数は平均月60回。相談件数は4件で、地域別には東京の本店ビル・都内支店・都内の関連会社・関西地区の支店と分散している。相談期間は1週間以内・1カ月以内・2カ月以内・継続中(3カ月超)各1件。終結までの対話回数は4回・5回・6回・未終結(9回)各1件であり、受理後の対話手段は主にEメールである。相談の主訴は、次の通り。

相談者

主    訴

Aさん(女性)

「雑用係」呼ばわりされ、辛い思いをした。向上意欲あるのに。

Bさん(〃)

視力低下・頭痛・疲労がひどく、仕事を続けるのが不安。辛さを分かってくれる人が周りにいない。

Cさん(〃)

同性の同僚と何かにつけ衝突して、苦痛。

Dさん(〃)

コミュニケーションが上手く取れず、独りぼっち。周辺に耳になってくれる人が欲しい。

このうち、内部資源と連携して対応したケースは2件(聴覚障害とVDT障害)あったが、他のカウンセラーや心療内科へリファーしたケースはなかった。また、職場へのケースワークを実行したケースが1件ある。

ところで、今回、イントラネット・カウンセリングが成立した基本的な要件として、4点を挙げておく。先ず、ファシリテイである。11台に近いPC配備およびそれが操作できる環境が確保されていること。次に、HPに専用サイトを作成するが、技術的にも相談内容の秘密保持が保証される必要がある。サーバーのデータをダウンロードできる権限は会社が認めたカウンセラーに限定されること。更に、経営上層部から「社内カウンセラー」としての位置付けとイントラネット・カウンセリング方式に関する承認を得ること。最後は、管理職を含む社員に対する広報・情宣活動である。

敢えてここまでの経験から所感を述べれば、イントラネット・カウンセリングの試みは、互いに時間が拘束されないこと、遠隔地の社員も相談できること、話すよりも書く方が本音を出しやすい社員もいることなど、利点が多いと思われる。反面、直接面接がないカウンセリング関係がどのように成立しているのかが見えにくいこと、互いにどこまで熱く語ってもデジタル記号は所詮クールであること、クライエントについての情報量が不足しがちなこと、終結の確認がとり難いこと、といった問題点もあるように思われる。(了)