「選ばれる作業療法のために」

人間科学専攻 長谷川龍一

著者紹介:
人間科学専攻の長谷川龍一です。岐阜県にある作業療法士養成校の平成医療専門学院に勤務しています。 「時間を忘れるほど作業を夢中になって行う」誰しもこんな経験をもっていると思います。そんな作業の効果を治療・訓練に生かした「作業療法の魅力」を一人でも多くの方に伝えたいと思っています。


 高齢社会が到来し、高齢者の医療・保健・福祉のあり方が問われる中、リハビリテーションは脚光を浴びているといってもよいでしょう。皆さんは、その一翼を担う専門職の作業療法をご存知でしょうか。作業療法の定義を日本作業療法士協会は『身体または精神に障害のある者、またはそれが予測されるものに対してその主体的な生活の獲得をはかるため、諸機能の回復・維持および開発を促す作業活動を用いて行う治療、訓練、指導および援助をいいます。』としています。ここに示された作業療法の特長は、対象に精神障害を含むこと、治療・訓練に作業活動を用いる点にあると私は思っています。

作業療法の特質について山根は、「生活」「具体性」「主体性」で示すことができるといっています。この作業療法の特質とは、障害をもつ対象者自らが作業活動を行い(主体性)、自らの五感を通して(具体性)確かめ(主体性)ながら、自分が生きる世界(生活)を見出していくことであると説明しています。

したがって、作業療法士の主な職務は、病や障害をもつ人たちに対し、様々な作業活動を用い、その人たちの新たな生活の可能性に向けて援助をするということになります。

一方、学問としての作業療法をみると、数年前より作業療法学が大学や大学院で教授されるようになりました。作業療法は自然科学領域の医学を基盤にしてきたため、その効果をより普遍的、論理的、客観的に数値化して証明し、作業療法を「学」として説明することが求められてきました。

しかし、作業療法の特質である「生活」と「主体性」は感性的特質であり、対象者の主観の部分であるため、数値化しにくい部分です。そのため、多くの作業療法士が作業療法の魅力や効果について、自然科学のみでは言い表せないことにジレンマを感じています。

 ここで注目したいのが人間科学です。人間科学の研究対象は人間です。従来、人間に関する研究は領域が細分化され、専門化されてきました。その反面、全体的で総合的な人間の捉え方が必要であるという指摘がされるようになりました。そして、現実の人間を解明し、それに対処するための学問の必要性が唱えられるようになった時代背景から、人間科学は生まれてきたといえます。

 このように、既存の領域を越え、人間という対象をとらえようとする点において作業療法学と人間科学は似ています。感性的な部分が重要視される現在、作業療法学や人間科学に限らず、新しい発想や視点で課題に取り組む姿勢が必要になったと感じます。

再び作業療法の周辺に目を向けてみると、今年の4月から利用者主体を基本理念とする介護保険が始まりました。介護保険の中で利用者に作業療法が選ばれるには、作業療法の魅力や効果を示さなくてはなりません。そのためには、私を含めた作業療法士が自分の視点で、自分の言葉で、作業療法の魅力や効果を利用者や社会に伝えることができなければならないと感じています。