「IT革命のからくり」
田原総一郎 月尾嘉男共著(アスキー 1,500円)
最近、新聞やテレビ、雑誌などで「IT」あるいは「IT革命」という言葉が頻繁に使われるようになってきている。世の中の大きな変化などを説明するときに、「ITのために生じた変化である」とか、「IT革命の結果である」という表現が多用されてきている。「IT革命」に対して、多くの人は漠然としてイメージを持っており、それが、インターネットや携帯電話の普及とネットビジネスの成長などであり、現在のIT革命が起きている現象として一般的に捉えられている。しかし、IT革命とは本当のところはなんであるか?という疑問に対して明確に答えが見つかっていないのではないかといえる。本書「IT革命のからくり」では、「サンデープロジェクト」でおなじみのジャーナリスト田原総一郎が、ITの本質とは何であるのかという疑問を、あらゆるテーマで東大教授である月尾嘉男に対してぶつけていくという、対談方式で話が進んでいく。本書は5章で構成されており、第1章では、アメリカ合衆国におけるIT戦略の真相を明かしている。アメリカがIT戦略を発動する一つの背景には日本の脅威があり、それ以降日本をどのように封じ込めていったかを詳しく説明している。その中でも、アメリカはインターネットの情報を盗聴しているという話には驚きを感じてしまう。第2章では、アメリカが、冷戦崩壊を背景に軍事からもう一つの戦略である環境戦略にシフトしていく過程と、暗号AESによって、アメリカだけが世界経済のオールマイティな立場になる可能性を示唆している。さらにIT後進国の日本には戦略がないことがみえてくる。第3章では、IT革命によってどのように社会が変わってしまうかをテーマにしている。IT革命により、生き残りの厳しい選別の時代になり、勝者がすべてを獲得してしまうようになる。また中間でマージンをとる業種の存在が危ぶまれてくる。この章で、IT革命の本質は、産業革命以降の大量生産から消費者主体の一品注文生産構造への変換としている。第4章では、都市と地方問題について論議している。IT革命によって地方の時代がくるということに注目したい。第5章では、IT革命の時代において守るべき文化を提案している。日本は文化の植民地にならないために、和魂洋才が必要である。本書を通じて、IT革命が、情報分野においての技術革新だけでなく、世の中のすべてを革命的に変える手段であることが分かる。
国際情報専攻 大村佳之
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