「社会人大学院生コミュニティIchi-Valleyへのお誘い」

国際情報 日下田 伸

はじめに

「大学(University)」の語源をたどるとラテン語のUniversitasに至り、これはギルドを意味しています。中世イタリアには多くの私塾が存在しており、学生はそれぞれの関心に基づいて時間と資金の許す範囲で複数の塾に通っていました。その学生達が自らの権利を守るために連帯したのが「学生組合(Universitas)」であり、「学生組合と私塾の連合体」がかたちづくられることで最古の大学であるボローニャ大学が成立したのです。

*)参考:http://www.itpc.i.hosei.ac.jp/~it003328/activity/CyberWorld/index.html

ボローニャ大学のキャンパスは都市全体であり、学生はそこに暮らし、学んでいました。年代も幅広く、バックグラウンドも多様な学生達がローマ法学を中心とした実用学問を学ぶ姿は、まさに今日の社会人大学院とオーバーラップするものです。Ichi-Valleyは、インターネット等を通じたネットワーキングによって現代の「学生組合(Universitas)」を構築し、この学生生活の実りをより高めることを目指します。



社会人大学院生コミュニティ

学生の特権、そして課程を終えて得ることのできる財産とは何でしょうか。もちろん勉強・研究が学生の本分であり、得られた知見とそれを生かした対応能力であることは間違いありません。そして、それと同等か場合によっては非常に大きな意味を持つのが、出会いや得られた人的ネットワークです。

かつての大学時代の自分自身を振り返ってみれば、完全に学生の本分をどこかに置き去りにして、学生の特権である自由な時間を謳歌し、遊び呆けて、サークルやアルバイト等を通じてネットワークづくりばかりにいそしんでいました。もちろん、大学時代に得られた仲間は今も貴重な財産であり、プライベートばかりでばくビジネスでも何らかの助けを得ることも少なくなくありません。

しかし、あまりにも不勉強であったことの反省も大きく、あらためて大学院を志した大きな要因になった次第です。そして、実際に社会人大学院生の大半は、従来の会社生活や家庭生活、地域生活でただでも忙しいところにムリヤリ大学院生としての時間までを割り込ませて頑張っているわけです。私など、かつての自由で優雅な大学生時代とは対称的な生活をしています。私のような元遊び人大学生は極端にしても、多くの社会人大学院生が学部時代とは大きく違った生活をしているんじゃないでしょうか。

もちろん、このような全力疾走とも言える大学院生活はその苦労に相応の成果をもたらしてくれるでしょう。しかし、ネットワークの広がりは非常に限られてしまう。とくに私達のコースの現状としては、特別研究のゼミを越えて他の学生と接点を持つ機会は極めて限られていて、他専攻ともなればDRが唯一のチャンネルです。もちろん、今後は「電子マガジン」が多くの仲間と出会う機会を提供してくれるでしょうけど…。

このようなネットワークの広がりの限界感は、程度の差はありますが、多忙な学生が多く少数制の他の社会人大学院でも同様のようです。限界とまで言わないまでも、あえて大学院にまで行って自らに磨きをかけようという人々にとって、出会いのチャンスが少しでも多いことは歓迎されることでしょう。

Ichi-Valleyは社会人大学院生を中心にOBや教員、進学希望者、関連する企業関係者等にまでに門戸を開いた社会人大学院生コミュニティとして、インターネットを通じた交流と人材や情報のデータベース構築、オフラインでのセミナーやイベントを実施していこうというものです。

11月11日土曜日(Ichiならびの日)にキックオフ・パーティを予定していて、いくつかの社会人大学院の有志達から参加の意向が示されています。この日程と「社会人大学院生のコミュニティ」であること以外は全てが、検討途上にありますし将来もどんどん有機に変化発展していくものであろうと考えています。試行段階ですが良ければ下記のURLにアクセスしてこのネットワーキングにご参加下さい。



<社会人大学院生街「市ヶ谷」でスタート>

私は、国際情報専攻の一部の先生方が市ヶ谷の日大ビジネススクール(大学院グローバルビジネス研究科、以下、NBS)でも授業をお持ちのことから、NBSの学生達とつながりを持つことができました。その縁で、彼らの勉強会に参加したり一緒に飲みに行ったりしていて、さらに同じ市ヶ谷にある法政大学の社会人大学院生達との接点もできて、このようなネットワークに発展させようということになったものです。

もともと市ヶ谷では、法政大学にビジネススクール(以下、HBS)がドクターコースも含めて早くから社会人大学院を設けられていました。昨秋からはその近所の日本大学会館でNBSがスタートし、今春からは法政にITPC(ITプロフェッショナルコース:一年制のIT専門修士課程)も設けられ、さらに中央大学のサテライトキャンパスも市ヶ谷へ引っ越してきたため、にわかに市ヶ谷が社会人大学院生街の様相を呈してきました。

このような状況にあって、当然のように社会人大学院生同士の交流を推し進めようという発想が生まれてきていて、ITPCとNBSの学生はそれぞれで全く同じようなアイディアを持っていました。しかも名称まで、「市ヶ谷」にちなんでIchi-ValleyとかMarket-Valleyなどの案で一致していたのです。

ちょうど私も個人的にNBS生と付き合っているだけでなく、同じ日大で同年度に生まれた双子の社会人大学院をもっと結びつけらないか考えていたところだったので、このI-Valleyのアイディアに合流させてもらった格好です。

8月の末にはじめてのミーティングを行って、HBS、ITPC、NBS、それに私を加えた4コースから有志が集まりました。それぞれの期待や思惑は若干異なるものの、積極的に交流できる場を創造していこうという点で一致して、インターネットを通じた交流と人材や情報のデータベース構築、オフラインでのセミナーやイベントの実施を具体的な活動として検討を進めることにしました。

その後、青山、上智、筑波、早稲田等の社会人大学院生へもネットワークを広げ、我々をサポートを申し出てくれている企業や関連のアイディアを持っている企業との接触を持ったり、本格稼動に向けたミーティングを重ねてきています。すでに、マスコミの取材を受けるなどしており、打ち出し方如何では社会的な関心も広く集められる活動になるのであろうと考えています。



Ichi-Valleyとサイバー大学院

I-Valleyへの期待はいろいろあって、ビジネススクールやITPCには会社を辞めて学生にに専念している人たちも多いため、やはり就職や起業のためのネットワークづくりへの関心が高いようです。また、従来ビジネススクール偏重だった社会人大学院がITPCのような技術系や私達のコースのような学際域へも展開をみせていることで、仕事はもちろん、研究やライフワークにおいても補完的なスペシャリティをもつ人間同士を結びつける可能性を高めています。

総合社会情報研究科のことを私は「日大サイバー大学院」と勝手に称して(稲葉教授からの受け売りですが…)説明していて、I-Valleyのようなサイバーコミュニティにはもっとも相応しい存在だと思っています。市ヶ谷を起点にしていますが、すでに都内の多くの大学院を対象にしており、日本全国から海外にまで学生がいる私達のコースが加わればインターネットを活用することのダイナミックさが増すことになるでしょう。

このコミュニティづくりに賛同してもらえるサイバー大学院生にとっても、ひとりでヘコタレそうになりがちな勉強・研究に刺激を与えてくれるでしょうし、限られたスクーリングの機会以外にもセミナーなどの実践的な勉強会への参加の機会も増えることになります。インターネット上でのコミュニティづくり自体が、実験的な意味合いを持っているので「人間」や「文化」を研究する学際域の学生にとっては場合によっては研究対象にさえなり得るし、パートナーにはITの専門家もいるので新しい形の共同研究の場にもなるでしょう。

また、インターネットによる通信制大学院として発展途上にある私達のコースは、システム的にもそれに関わる人間の姿勢においてもまだまだクリアしなければいけない課題が多いと思っています。大学のシステムを離れた自由なコミュニケーションの場でありながらみんなが大学院教育に関心と経験をもっている人々との交流は、通信制大学院のシステム上の難点を点検したり私達自身のネット・コミュニケーション・スキルを高めることにつながり、通信制大学院の前進にも大きなフィードバックをもたらすものだと確信しています。



今はじめよう


とにかくみんなで集まって走り出してしまおう、後は走りながら考えようというのがI-Valleyの現状です。修士課程の期間なんてアッという間なので考えている余裕もない、何しろ1年制のコースまであるのだから…。そういう意味では、現役生よりもOBが中心になってくる可能性もあるでしょう。

ある程度の歴史があればともかく、社会人大学院の大半がまだ生まれたばかりで同窓会やOBネットワークも未成熟なのが現状です。実際に、私達のコースからも来春には最初の卒業生が生まれますが卒業後のネットワーキングなど個々の研究室レベルを除けばなかなか難しいのが現実でしょう。例えば、I-ValleyのBBSに同窓生の会議室を置けばそこをコアにして卒業後のコミュニケーションを図る手もあるわけです。

その他、データベースなどどのような機能を持たせるのか、セキュリティをどうするのか、ミニマムとはいえコスト負担をどうするのか、企業等との付き合いをどうするのかなど懸案事項は山ほどありますし、セミナーやイベントなどのやりたいことも沢山あります。最近では「学園祭はやれないのか?」なんていう話題も飛び出しています。

全てがこのコミュニティへの参加者で考え、解決しながら面白いことをやって、さらに人生の財産ともなるような人と人のつながりを得ていこうというものです。もちろん、私もそうですが、学業と仕事の両立にたいへんな思いをしている人が多いと思いますので、このネットワーキングに参加することを躊躇するのも理解できます。しかし、このような場を持つことが学業への活力をもたらしてくれるものである確信しています。分野や立場に相違があっても、社会人大学院生としての前向きな姿勢をもった仲間を得ることができる意義は大きいはずです。